正しさカードゲームと化した現代コミュニケーション環境において、人はとにかくお行儀よく振る舞うことを求められます。
社会のお行儀、というのはおおむね「多数派である俺らを不愉快にさせるんじゃねえぞ」というプロトコールです。
みなさんの記憶にあるかどうかは定かではないですが、まずいラーメンを出すな理論はそれに対するカウンターです。
「現場の一体感」より、ちゃんと本質に向き合え。おれらは客にものを出す立場やぞ。
こういった強めの言語化をもってしても打ち勝つのが難しいのが現場の空気感ってやつです。
前向きであれ、否定的なことはいってはいけない(おお、みんな大好きブレスト!)
どっからどうみても失敗は必至、あるいは成功しても意味がない見当違いのプロジェクト。
そんなアホみたいな状況に冷や水を浴びせるのは大変な勇気が必要です。
「みんな成功させようと頑張ってるんだから!」
「後ろ向きなやつがいると成功するものもしないだろ」
どんなに良かれとおもっていても、一体感に酔った人たちに諫言は届きません。
確証バイアスってやつです。
会社員とは、結局のところ悲しいソルジャーです。
墓穴と知っていても、上司が命じてそこにサラリーが生じるなら掘るしかないのです。
かくして、彼あるいは彼女の見立て通りプロジェクトは失敗しました。
一体感の熱狂も冷めたアホな人たちはのんきに司法解剖に入ります。
「何が悪かったのかなあ」
「どうしたら成功したのかなあ」
「そもそもやる必要あったんですかこれ?」
「だから言ったじゃん」
「いい大人」
「ちゃんとした社会人」
はこのセリフを吐いてはいけないことになっています。
なぜでしょうか?
それはあまりにも正論すぎて言われた人が泣いちゃうからです。
多少知恵の回る人間だと
「そういうことは後でどうにでも言えるでしょ」
とか言って「予見できた結末だ」という当人の主張を黙殺しようとします。
まともな知能を持っていれば、その司法解剖においてやるべきは
「最低でも一人は失敗を予想できた人間がいたのになぜプロジェクトは突っ走ってしまったのか?」
「予想された失敗シナリオをあらかじめ分析していれば成功することはできたのか?」
という建設的な議論であるはずです。
しかしこれができる組織は稀です。ていうかみたことないです。
よくて黙殺、次はもっとがんばりましょうね〜〜というような毛繕いをしておしまい。さらに凡庸なケースでは「おまえがそういうことをいって非協力的な態度をとったから失敗したんだろ」と責任転嫁しておしまいです。
それこそまずいラーメンを出すな、というオモシロ鋭い言語化をできる人間が上に立つ組織でもないと
「自分たちはみえてる地雷を踏んだアホ」
という事実に向き合うことはできません。
どう考えても失敗プロジェクトに対して
「だから言ったじゃん」
を言ってはいけない論理的理由は見当たりません。もちろん言い方をオブラートに包むくらいはしたほうがいいとおもいますが。
むしろ事前に失敗を察知していた、再現を避けたり、あるいは別プロジェクトの計画立案に転用したりするうえで有用極まりない情報です。
ちなみに先ほど述べた確証バイアスは失敗を予見していた当人にも当てはまります。
彼の分析が正しくて、その上でその通りに失敗したのか。
彼は見当違いの分析をしていたが、それとは無関係に失敗したのか(その場合、失敗ルートがありすぎると言う点がまず問題ですが)。
その辺も掘り下げる余地がありそうです。
でもダメです。
「だから言ったじゃん」
は卑怯者の言葉だ……ということになっています。正しさプロトコールからは外れる禁句です。
みんなで必死に頑張った仕事、それに対して一人だけ安全圏から賢しらに振る舞っている空気を読まないイヤミの仕草なのです。
赤信号はみんなで手を繋いで渡りましょう。
わたらなかったやつはあとで殴りましょう。
「だから言ったじゃん」を濫用してはいけない理由
矛盾するようにきこえますが、この言葉は基本的に言うべきではありません。
占い師のよく使うインチキに無意識のうちにはまり込む危険があります。
例えば、事前に大量の占いをしておいて当たったときだけ大騒ぎする*1。
あるいは予言の自己成就(まさに「お前が非協力的だったから失敗したんだろ」ですね)。
そしてそもそも凡庸な人々に失敗を突きつけるのはコミュニケーション上のリスクです。人はどうせ反省なんてしません。他人に指摘されたらもっとしません。
「だから言ったじゃん」は言うべきではありませんが、相手から引き出す度量が必要です。
程度にもよりますが、失敗するべくして失敗するタイプのプロジェクトにはどこかに予見者がいて、アラートを発してくれています。
ブレストで否定的な発言をするのが御法度なのは、なるべく多くのアイディアを出す妨げになるからであって仲良しこよしで心地よくやるためではありません。
アイディアを選り分けたり洗練する過程で否定的な意見がでるのは当たり前です。
「だから言ったじゃん」が出てくる理由
そもそもの問題として、一緒に頑張った「な"か"ま"ッ」からそんな悲しい言葉が出てくる理由について考えてみましょう。
我々はそのだから言ったじゃん氏の発言とちゃんと向き合ったのでしょうか?
イエスマンに囲まれてる方が楽だから……その人の後ろ向きな意見を黙殺、封殺してゴリ押ししませんでしたか?
ちゃんと話し合って、どういうベクトルでプロジェクトを進めていくか意見を擦り合わせる努力は?
あるいは、最後まで意見が真っ二つに割れるようならば、そもそも別のチームに割り当てるべきだったのでは?
顔突き合わせて話し合って、気持ちまで同じチームに引き込めば、ソイツの性格がどんなに歪んでたとしても
「やっぱこうなっちゃいますか」
くらいにはトーンダウンしません?
少なくとも当事者としての悔しさくらいは出てくれるでしょう。人間だもの。
だから言ったじゃん。
オメーがちゃんと人の話を聞かないのが問題なんだって。
追記。
それと当事者の気持ちになってあげれば、そんくらい言わせてやれよとはおもいますね。
だって最初からやめとけ!って言い続けてるのに無視されて、墓穴掘るのに巻き込まれて、案の定失敗して……しかもなぜか失敗の責任まで被る羽目になったりしちゃって……
せめて溜飲を下げるくらいさせてあげたってバチは当たらないんじゃないでしょうかね。
僕自身は「ほら〜〜だから言ったじゃん〜〜〜」って言われても特に腹が立たないタイプなのでそうおもうだけかもしれません。
ちなみに一言も言ってないことに「だから言ったじゃん〜」って言われるとめちゃくちゃ腹が立ちます。記憶を改竄するな定期
*1:これってなんていうテクニックでしたっけ